期間:
2024年6月22日(土)〜10月14日(月・祝)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
2024年6月22日(土)〜10月14日(月・祝)
10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
金沢21世紀美術館
展示室7~12、14、交流ゾーン
一般 1,200円(1,000円)
大学生 800円(600円)
65歳以上の方 1,000円
小中高生 400円(300円)
未就学児 無料
※本展観覧券は同時開催中の「コレクション展」との共通です
※( )内はWEB販売料金と団体料金(20名以上)
※当日窓口販売は閉場の30分前まで
休場日:月曜日(ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開場)、7月16日、8月13日、9月17日、9月24日
出品作家数:
16組
作品数:
35点
金沢21世紀美術館 TEL 076-220-2800
人間と自然のより調和的でバランスのとれた関係を目指す上で、アートはその特性とするオープンで受容的な考え方や、既存の前提を疑う姿勢、そして今を生きる我々が、意識をどこに向けていくかを再考する重要なプラットホームとなり得る。人間の自然界への積極的な関与もまた、現代的な意識の変化と「世界」の把握に影響を与えるものと考える。展覧会「Lines—意識を流れに合わせる」では、自然の中に見出す手がかりを、どこまでも追求するアーティストらによってもたらされるもののほとんどが線に沿って進んでいるとするティム・インゴルドの考えを参照して、世界を相互に結びついた生態系のプロセスの網の目として理解し、私たち人間の創造的実践をより広範な文脈の中に統合すること、また、生きるためにさまざまな亀裂を縫い続けて線に沿って歩くことを現在進行中の前向きな「なりゆき」のプロセスと捉える。線の探究に積極的に参加する作家作品を紹介する。
黒澤浩美(チーフ・キュレーター)
気鋭の人類学者であり社会科学者としても知られるティム・インゴルドは、線という概念について興味深い視点を持っています。彼の著作のひとつ「Lines」によれば、線は世界にあらかじめ存在する実体ではなく、むしろプロセスであり活動そのものであるとの考えを示しています。線がどのように世界という織物の中に織り込まれ、物、人、アイデアをつないでいるかについて、インゴルド氏自身が研究の一端を語ります。
日時:10月12日(土) 14:00〜15:30(開場13:30)
会場:金沢21世紀美術館 シアター21
定員:100名
全席自由 / 日英同時通訳付
展覧会「Lines- 意識を流れに合わせる」の出品作家6名が、作品の前で自作について語ります。制作のコンセプトやアイディアなど、制作者の生きた声で語られる貴重な時間です。
6月22日(土) *印は逐次通訳(日–英)
Session 1: 11:00〜11:30 大巻伸嗣
Session 2: 11:45〜12:30 Henrique Oliveira*
Session 3: 14:00〜14:45 Eugenia Raskopoulos*
Session 4: 15:00〜15:30 横山奈美
Session 5: 15:45〜16:30 Jakob Fenger(SUPERFLEX)*
Session 6: 17:00〜18:30 Judy Watson+Cheryl Leavy(朗読/ 詩人)*
「Lines- 意識を流れに合わせる」の出品作家、Marguerite Humeauは、昆虫の集団行動に深い関心を寄せ、彫刻や映像作品に反映させています。彼女の作品にちなんで、蜂の生態について深く知るレクチャーと、美術館の敷地内に設置したニホンミツバチの巣箱の見学の会です。
日時:9月7日(土) 14:00〜15:30
講師:石川卓弥(石川県ふれあい昆虫館学芸員)
出品作家・八木夕菜によるアーティスト・トーク+若狭と京を結ぶ鯖街道群についてのレクチャーとダイニング。
日時:10月7日(月) ※8/15にチケット販売を開始いたします。WEBサイトをご確認ください。
講師:八木夕菜(出品作家)
中東篤志(カリナリーディレクター/料理人)
川股寛享(小浜市文化観光課学芸員)
「Lines- 意識を流れに合わせる」は、地球上のあらゆる有機体が紡ぎ出す糸の絡まりとその関係性の網目を考えてみようという展覧会です。美術館内で作品を紹介するだけでなく、自然の中にも「線」を発見する散歩をお薦めしています。
各回、黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター)、野中祐美子(同キュレーター)いずれかがナビゲートを務め、美術館の敷地内を散歩するツアーです。
日時:7月13日(土) 、7月27日(土)、9月14日(土)、9月28日(土) いずれも9:45〜10:45
※友の会会員のみ 8月10日(土) 18:30〜19:30
※サスティン会員のみ 8月24日(土) 8:45〜9:45(時間が変更になりました)
VRゴーグルを装着したアーティスト日比野克彦が仮想空間と現実空間を行き来しながらそれぞれの空間に脳(意識)が移動し、それに身体が反応してライブペインティングを行う、ワンナイト・イベント。今年2月に南仏フォンフロワドにあるルドンの壁画の部屋で描いてきたVRのデータをきっかけに金沢の地では何が起こるのか?その場で目撃しないことには、この感覚は伝えきれない…。
日時:2024年9月20日(金) 開場18:00 / 開演18:30〜21:00(途中休憩有)
会場:金沢21世紀美術館 シアター21
料金:無料(予約不要)
定員:80名
アーティストの原嶋亮輔が、三谷産業株式会社が持つ6つのセグメントから、化学分野をリサーチして、素材、加工物、廃棄物と呼ばれるモノと、人々がどのような「関係性」にあるのかをスタディしました。今回はその関係性を写し取ることで全体構造を可視化し、モデル化したものを展示します。
日時:2024年9月14日(土)〜9月29日(日) 10:00〜18:00
会場:金沢21世紀美術館 情報ラウンジ(柿木畠口)
料金:無料
休場日:月曜日(ただし、月曜日と開場時間外にも結界の外からは22:00までご覧になれます)
エル・アナツイ、 ティファニー・チュン、 サム・フォールズ、ミルディンギンガティ・ジュワンダ・サリー・ガボリ、 マルグリット・ユモー マーク・マンダース、 ガブリエラ・マンガーノ&シルヴァーナ・マンガーノ、 大巻伸嗣、エンリケ・オリヴェイラ、 オクサナ・パサイコ、 ユージニア・ラスコプロス、SUPERFLEX、 サラ・ジー、 ジュディ・ワトソン、 八木夕菜、横山奈美
アーティストプロフィール(pdf)
《Shape of Your Words[In India 2023/ 8.1-8.19]》 2024年
実物のネオン管で言葉や消費されていくイメージを制作して、それを忠実に絵画に描く横山奈美。最近作は、インドでの滞在制作を通して、はじめて自分以外の人々が書いた「I am」という文字をコラージュした《Shape of Your Words(言葉のかたち)》だ。目と心に導かれた手の動きによる書き文字は、その瞬間のその人の意図、感情、思考を反映した独特の痕跡を生み出す。書き文字のドローイングをネオン管で立体化した後に平面に戻すというプロセスについて横山は「『私は』の言葉が表す『他の人の身体を忠実に描くこと』」 と言う。手書きの「Lines(線)」は、言葉の意味以上に心と身体と外界を直接結びつけることができる。
《Plateau 2024》 2024年
日本海は、アジア大陸と日本列島に囲まれた縁海で、対馬海峡からの対馬暖流が流入する。外洋との海水交換が表層に限られた閉鎖性の高い海域で、3つの海盆があり、その中央は大和堆と呼ばれる浅瀬だ。2024年1月1日の地震で被災した能登半島は、この日本海に最も突出した半島である。大巻伸嗣による《Plateau 2024》は、円盤にプリントされた世界を構成する大陸のダイナミックな動きと、その上に据えられた銀色のオブジェが大和堆の上の空と海を、盤上を静かに動く振子には大和堆の地形が溝に刻まれている。時間と共に変化する陸地と海の関係は、常に「なりつつある」状態にあり、人間社会が共有する時間の軸とは異なる時間を刻む。大巻は実体を固定的で静的なものとして見るのではなく、関係の網の目の中に取り込まれ、環境との相互作用の中で常に変化しているものとして見るべきと本作で示唆して、量塊とそれを取り巻く環境との間がゆらぎながら変化している「動き」を表している。
《記憶の傷跡、フィンガーライムの根、カスアリーナ・イエロンガスタジオで見つけたオブジェ》 2020年
《立石、黄土色の網、背骨》 2020年
《グレートアーテジアン盆地の泉、湾(泉、水)》 2019年
《頭骨漁り》 2021年
ジュディ・ワトソンはオーストラリアの先住民であるアボリジニの遺産を参照し、伝統的な先住民の芸術形態や彼らの生活や文化の象徴を現代的な文脈で、モノタイプ*、彫刻、インスタレーション作品を発表している。顔料、黄土色、天然染料などの素材を巧みに使いこなし、ファウンド・オブジェクトやアーカイブ資料を作品に取り入れた作品は、先住民の血を引く自身の身体性、時間と記憶のレイヤーが一体化しており、深みと意義に富んでいる。
*モノタイプ:版に直接インクや油絵具などの描画材を用いて描画し、その上に紙をのせて圧力をかけることにより、版に描画したイメージを紙へと転写する版画技法。
《パースペクティブス》 2015年
アナツイの代表的な作品は、金属ボトルのキャップ、牛乳缶の蓋、アルミの帯など、廃棄された素材から作られた複雑なタペストリーであることが多い。これらの素材を丹念に縫い、織ることで、記念碑的な彫刻へと変貌させている。高さ12メートルに及ぶ本作は、人の手を介して有機的に絡まり合う様子を示し、共有した時間の流れがそのまま織物となって顕現化したものである。持続可能性、臨機応変さ、経済的・環境的課題に直面する地域社会の回復力というテーマを物語っている。消費文化が世界に与える影響や、アフリカの文化的、社会的、政治的背景に対する感受性の反映をダイナミックに表した大作である。
《醸造家》 《シロアリ菌の守護神》 《落葉II》 《ハニー・ホルダー》 《集団的熱狂》 2023年
多様で学際的な芸術活動で知られるフランスの現代アーティスト、マルグリット・ユモーの作品は、しばしば芸術、科学、神話の境界を曖昧にし、生命の起源、古代文明、人間と動物の関係などのテーマを探求している。彼女の彫刻作品は、しばしば人間以外の生き物とその環境との関係を探求し、すべての生き物の相互のつながりに注目させる。昆虫が生態系の中で繁栄するために採用している複雑なシステムとコミュニケーションの方法は、科学的な見聞と、彼女が感じる生き物の本質の両方を捉え、ユモーの彫刻を傑出したものにして生命を吹き込む。音や光、香りの要素もしばしばインスタレーションに取り入れ、彫刻、ドローイング、インスタレーションといった伝統的なメディアと、科学的リサーチや思索的なストーリーテリングを組み合わせて、崩壊しつつある人間社会から、昆虫コミュニティ内の秘密の生活のシミュレーション、そして新たに形成された集団がシンクロする過程にある未来の集まりの予想図を見せる。
シリーズ「Passes」 2024年
「御食国(みけつくに)」は、古来、天皇が食される海産物などの食物を納めた国を示し、万葉集には、伊勢・志摩・淡路などが詠われている。奈良時代の木簡や平安時代の法典「延喜式」からは、若狭が「御贄(みにえ)」を納める国であったことがうかがえ、今日においても「鯖街道」と呼ばれる道筋が、人々の往来を示すLines(線)として地図に標が残っている。八木夕菜は、2021年から2年間にわたって料理家・中東篤志と共に若狭ぐじ、よっぱらいサバ、熊川葛、金時人参など、鯖街道沿いの豊かな食材と、自然界の繰り返しに寄り添う季節の移ろいを表す風景を、繊細で透明感のある写真にとらえてきた。街道沿いを実際に歩くように50作品から成る連作は、人々の営みが点で構成されたものでなく、時間と空間をつなぎながら美しい網目となって絶えず変化し、相互に作用し合っていることに気づかされる。
《ニンイルキ》 2010年
《ディビルディビ・カントリー》 2008年
《ディビルディビ・カントリー》 2009年
《スウィアーズ島》 2008年
Birmuyingathi Maali NETTA LOOGATHA, Mirdidingkingathi Jurwunda SALLY GABORI,
Warthadangathi Bijarrba ETHEL THOMAS, Thunduyingathi Bijarrb MAY MOODOONUTHI,
Kuruwarriyingathi Bijarrb PAULA PAUL, Wirrngajingathi Bijarrb DAWN NARANATJIL,
Rayarriwarrtharrbayingat AMY LOOGATHA
サリー・ガボリは、故郷のクイーンズランド州ベンティンク島をモチーフにした鮮やかな土地や海の風景で知られるオーストラリア先住民のアーティストである。80歳になってから画家としてのキャリアをスタートさせ、伝統的なアボリジニの絵画―点描、線、幾何学的なモチーフーとは全く異なる、大胆な色彩を独自のリズムとパターンで展開するスタイルを築いた。彼女の民族・カイアディルトを中心に、アボリジニの先祖が代々継承してきた土地、海、空を、まるで空を飛ぶ鳥の視点から地上を見おろしたように描いている。躍動感と活力のある作品群は、彼女の個人的な人生と、民族の文化的な物語を力強く表現したもので、自然と民族への共感で溢れている。
《4つの黄色い縦のコンポジション》 2017-2019年
《黄色い縦のコンポジション》 2019-2020年
《存在する全ての言葉のコンポジション》 2005-2022年
《2色のコンポジション》 2005-2020年
マーク・マンダースは1986年より「建物としての自画像」という構想に沿って、インスタレーション、彫刻、紙作品やドローイングなどの作品制作を行なってきた。これらの作品は、架空の建物のメタファーであると見なし、正確な形や大きさが定まっていない別々の「部屋」に分けられ、時間的には始まりも終わりもない。このコンセプトに基づいて、粘土やブロンズ、木といった身近な素材を用いて、実際に使用した素材よりも脆弱に見える彫像を制作。未完成、あるいは壊れてしまったブロンズ製の人物像のほとんどは、人間存在の不確かさと曖昧さに重ねてみれば、私たちの時代における、漠然と人々が持つ不安や見通しの暗さに重ねることもできる。特定できない場所、時間、人物が網の目のように交錯する作品群は、静謐と不穏の混じり合いの中に人々を導いていく。
《真夜中の虹》 《永遠の命》 《ペトリコール》 《夜の音楽》 2023年
サム・フォールズのキャンバスの作品は、太陽の光、雨、風といった自然の要素を利用して、キャンバスの上に植物を配置して何週間にもわたって屋外に置く。このアプローチは、環境と作品との共生関係をもたらし、伝統的な芸術的創造と自然の力との境界線を曖昧にする。この独特のプロセスを通して、無常、儚さ、時の流れといったテーマを探求しているが、彼の作品を考えるうえで、より重要な点は、最終的な作品と同様に芸術表現の一形態として制作行為を重視し、その実践において自発性と即興性を受け入れていることであろう。
《出国の歴史を再構築する:ベトナムからのボートの軌跡、難民キャンプからの飛行ルートとODPの事例》 2020年
《水に記憶があるならば》 2022年
《テラ・ルージュ:円形土塁、ゴム農園、廃飛行場が絡み合う風景 》 2022年
《テラ・ルージュ円形土塁調査 No.7》 2022年
ティファニー・チュン(1969年生まれ、ベトナム/アメリカ)は、都市から大陸まで、また、古代から現代まで、さまざまな地域の歴史、文化、生態、景観考古学に関する詳細なリサーチと内容の分析を通して培われた学際的な活動を元にした作品で世界的に知られている。彼女の作品は、紛争、気候変動、人類の移動に絡む社会政治、経済、環境プロセスの複雑なもつれの追跡を表現したものであり、そのような絡み合いは、紙の作品シリーズ「Terra Rouge」にも現れている。ベトナム南西部にあって、 紀元前2300-300年と言われる新石器時代の円形土塁の土壁の痕跡や、19世紀のフランス植民地時代のゴム農園、ベトナム戦争で放棄された飛行場などが描かれたものだ。作品《出国の歴史を再構築する:ベトナムからのボートの軌跡、難民キャンプからの飛行ルートとODPの事例》は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や公文書館(UNHCR Archives)から、政府や政府内の通信文書を入手、地図に印を付けて脱出の歴史を再構築。1975年以降のベトナム難民がアフリカ、中東、ラテンアメリカなど世界中に脱出した海路と陸路、そして秩序ある出国プログラムの軌跡を描いている。《水に記憶があるならば》の中で、水には人体の物理的な物質のような堆積物や溶解した物質を含むある種の記憶があることを示唆。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の記録と、タイ湾で海賊がベトナム難民の船を襲撃した場所の座標を基にしたこのビデオインスタレーションは、襲撃され水中で命を落とした人々のための象徴的な海洋葬をテーマに、私たちを歴史的トラウマの現場へといざなう。強制移住の複雑な経験だけでなく、追悼と癒しの行為を通して、私たちの世界の非人間性の下に埋もれた人間性をも思い出させてくれる作品群である。
《短く悲しい文(二国間の国境に基づく)》 2023-2024年
1982年、東欧の歴史的地域であるルテニア生まれとされる以外に、詳細な経歴を辿るのが難しいオクサナ・パサイコの無名性は、完全に意図的に作り出されたもので、創作はアーティストの存在そのものにも及んでいる。2004年の「マニフェスタ5」に参加した際、彼女は展覧会カタログの略歴に「アーティストの希望により、彼女の人生についての詳細は掲載されません」と記載するよう求めた。《短く悲しい文(二国間の国境に基づく)》は、石鹸に人間の髪の毛が1本ずつ固定された作品で、これらは争われる国境を隠喩的に表現している。ルテニアは正式な州ではないが、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ウクライナに挟まれた東ヨーロッパの一地域である。森も山も海も、本来は分離した境界を持つ個体ではないにも関わらず、人為的な国境「線」による分断は、東欧の歴史が数世紀にわたって直面してきた戦争や紛争と深く関わっていることと密接に絡まっている。
《作り直すまたは言及する》 2010年
ユージニア・ラスコプロスは、写真、ビデオ、インスタレーションなど様々なメディアを使い、印やジェスチャーがどのように意味を持ち、個人的あるいは文化的な物語を伝えることができるかを探求している。タイトルの《作り直すまたは言及する》は、既存のマークやシンボルを再解釈または再想像するプロセスを示唆しており、視覚言語を通して意味が構築され、伝達される方法について、彼女の関心を浮き彫りにする。線は、移動、成長、つながりの道筋を表し、糸は人生のさまざまな側面を織り成す糸を象徴している。印をつけることと作ることは、人間が環境と関わる活動の痕跡であり、ひいては個人は日々の生活を通して世界を作る継続的なプロセスに参加している。
《落下の可能性》 2009年
ガブリエラとシルヴァーナ・マンガーノは、プライベートで親密なジェスチャーで凝縮された、ビデオ作品において独自の美学を生み出している。《落下の可能性》は、二人の腕が、まるで空間に絵を描くように動きながら、姉妹の手にテープが絡みつき、素早いジェスチャー(身振り/手振り)で優雅なダンスをなぞる。テープは、動きの中で二人の間で交換されながら、常に二人をつないでいる。冒頭はバレエのような優雅さと互いに呼応するような動きで始まり、時間が経つにつれ、より緊張感のあるやりとりになっていく。ジェスチャーは孤立した行為ではなく、文化や歴史、身体化された経験と複雑に結びついているので、社会規範、個人のアイデンティティ、過去の経験と相互に関連していることを認識するきっかけにもなるだろう。
《権力のトイレ デス・マスク》 2024年
《垂直移動》 2021年
《権力のトイレ デス・マスク》は、トイレ、蛇口、ロール付きトイレットペーパーホルダー、タイル、水洗ボタンといった衛生器具のデス・マスクを鋳造するための鋳型の作品である。型は、それぞれ、国連気候変動枠組条約事務局のトイレという、本部の限られた権力者のみがアクセスできるプライベートな空間を象ったもので、未焼成の粘土で鋳造された彫刻は、この空間の断片的な相似形となる。金沢の土を使って彫刻は複製され、どのような数でも、どのような組み合わせでも展示することができる。トイレという日常的な排泄の場をパブリック・ドメインとして再構築することで、権威的な建築に立ち向かい、オリジナルとコピー、排他性と包括性、ひいては権力のインフラとその日常的な顕在化との関係も問い直す。
制作協力:金沢美術工芸大学 今西 泰赳、小岩井琳太郎
《垂直移動》は人間が生態系システムの中では参加者であるという考え方に基づいた映像作品である。海洋海面上昇のため、今後数世紀のうちに、より高い場所や高層ビルへと垂直に移動することになるだろう。クラゲなど、水中に生息する複数の生物が集まった群体生物の物語は、私たちの物語でもある。生身の人間は漆黒の深海を旅することはできないが、私たちがつながっていること、私たちの行動が互いに影響し合っていること、そして共通の運命を共有していることを認識するために、観察し検討を加えることはできる。作品では、センサーによって、人が近づけば生物が遠のき、人が謙虚に距離を保てば、やがて生物はゆっくりと画面を横断していく。
※《垂直移動》は市役所側のガラス壁面にて、16:00〜22:00に上映(休場日を除く)。
《死の海》 2024年
エンリケ・オリヴェイラは、しばしば廃棄された家具や建設現場などの都市環境から作品材料とする木材を調達し、彫刻やダイナミックなインスタレーションに変えて、新たな命を吹き込んでいる。自然を開拓した人工的な空間に、自然樹木の加工材を持ち込んだ近代化がもたらした結末に対して、オリヴェイラによる廃材の使用は、消費、廃棄物、人間と環境の関係についての考察など、何層もの意味を持たせている。曲がりくねった有機的なフォルムは、まるで今でも成長し、部分的に空間を支配して、自然界の境界線を曖昧にする。美術館の内外が人の往来によって可視化されている建物の入口(出口)に門のようなフォルムの新作を発表する。
《喪失の美学》 2004年
サラ・ジーの作品の多くは紙、金属、木、プラスチック、ボトルや椅子、電球のような拾い物など、日常生活に使われるありふれたモノを素材に組み合わせ、繊細で精緻なインスタレーションである。《喪失の美学》は、オブジェクトが組み立てられたり分解されたりする過程にあるような、絶え間ない流動的な状態を示唆し、彼女が探究する「混沌と秩序」という関心事や、物体をどのように配置・構成すれば、複雑さとバランスの感覚を同時に生み出すことができるかという二面性を見事に反映している。複雑な構造を辿って混沌と秩序の間の緊張と戯れながら、私たちが身の回りの世界をどのように線に沿って知覚し、ナビゲートする作品である。
金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁 委託:令和6年度日本博 2.0事業(委託型)
スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団、デーニッシュ・アーツ・ファウンデーション
三谷産業株式会社、能崎物産株式会社
株式会社 山田写真製版所、金沢美術工芸大学
北國新聞社